SAPIXを運営している日本入試センターが、個別指導塾『受験ドクター』を訴える裁判を起こし、東京地裁の判決が2018年5月に下されました。


意外かもしれませんが、学習塾の裁判は珍しいものではありません。よくあるのは、不合格だった生徒が塾を訴えるケース、講師への給料が未払いになっているケースなどです。ただ、中学受験の有名塾同士で争うというのはかなり珍しいです。


今回は、SAPIXのテストや教材の解説を受験ドクターが勝手に行っているということで、SAPIXが損害賠償請求をしました。そもそも受験ドクターはSAPIX出身の先生が独立しており、関係は悪かったと推察されます。


裁判の過程で面白い事実がいくつか分かったので、それについても書いていきますが、まずは訴えをざっくりと簡単にまとめます。
(参照:裁判所ホームページ )



【SAPIXの主張】
①.受験ドクターはSAPIXのテストの解説動画や、SAPIXのテキストに対応した教材を作成して配信・販売している。しかし、SAPIXは許可をしていない上に、これらの教材や動画を作成したのはSAPIXだと誤解されてしまうため、受験ドクターのサイトや教材に「SAPIX」の文字を使用しないよう求める。また、SAPIXのテストを勝手に使わないよう求める。

②.受験ドクターは「SAPIX」の文字を使用したことで、SAPIXから塾生を500名獲得した。これにより受験ドクターは6000万円の利益を得たが、その分SAPIXは損をしたため、6000万円(と弁護士代300万円)を請求する。

③.もし②が認められなかったとしても、プリバート(SAPIXの個別指導)に所属するはずだった生徒308名(平成28~29年)を受験ドクターに違法に奪われた上に、受験ドクターがSAPIXと関係ない会社であることを広く説明するために、少なくとも2500万円をかけた。そのため、4348万円を請求する。




【判決】
SAPIXの請求を棄却しました。つまりSAPIXが敗訴、受験ドクターが勝訴したということです。理由は以下の通りです。

①「SAPIX」の文字を使っていても、「受験ドクター講師が解説」といった記載があるため、SAPIXが配信していると誤解することはない。また、多くの生徒や保護者は、塾の成績を上げるための塾があることを認識している上に、大手塾の成績を上げたいという保護者の要求に応じて解説を行うことは違法とはいえない。


②受験ドクターは「SAPIXの成績を上げるための授業をする」と宣伝しており、SAPIXを続けてもらう前提で営業をしている。そのためSAPIXは損をしていない。


③受験ドクターのせいでプリバートの塾生が減少したとしても、それは然るべき競争の範囲内といえる。(つまり、プリバートの塾生を増やしたいのなら、受験ドクターよりも良いサービスを提供しなさいということ。)




【個人的感想】


SAPIXは動画配信を止めたいという目的で裁判を起こしたのだと推測されます。SAPIXの強みはテキストやテストの質やノウハウです。それを動画で公開されるというのは、商売道具が無償で配布されている状態とも言えるため、SAPIXが怒るのは仕方ないことかもしれません。

とはいえ、今回のSAPIXの主張は無理がありますね。勝てないと分かっている中で受験ドクターに圧力をかけようとしたのか、はたまた経営陣が法律に疎くて勝てると思ったのか真相は分かりませんが、負けが濃厚な中でなぜ裁判を起こしたのか不思議です。


また不思議だと思ったのは、SAPIX側がプリバートから受験ドクターに生徒を取られていると認識している点です。(2年間で308名)


受験ドクターが宣伝してようが、プリバートが質の高い授業を行っていれば、ここまで生徒は取られないはずです。SAPIXに通う生徒や保護者が求める授業をプリバートが行えていないだけにもかかわらず、「生徒を取られた」と公に主張するのはSAPIXらしくないなあと思いました。


裁判の過程で分かったのは、SAPIXがかけている年間広告費です。「天下のSAPIXなら宣伝しなくても生徒が集まる!」なんて思っていましたが、わりとその直感は正しかったようです。

気になる年間広告費は‥‥3億4千万円!

授業料のうち3億円が広告に消えていると思うと高く感じますが、東洋経済の記事 によると同業の早稲田アカデミーは16億円かけているので、それほど高くないですね。ちなみに東進ハイスクールや四谷大塚を傘下にもつナガセは49億円かけています。

やはりSAPIXは実績と口コミで生徒を集めることができているのですね。



一方の受験ドクターも安心してられないでしょう。今回の裁判において、受験ドクターに通う生徒の半数以上がSAPIX生であるとの記載がありました。SAPIXとの関係が悪化し、サピ生からのイメージが落ちてしまえば、経営に大きなダメージを与えかねません。


今後の流れを注視していきたいですね。


追記
2018年12月にSAPIXによる控訴が棄却されました





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